日本にいると日本人らしく何曲か聞いてくださいという人に会います。表現力があるなら聞かそうとしなくても聞きたくなります。こちらからリクエストしてしまうものでしょう。相手の心に何の動きが生じないことに、歌手まで鈍感になってしまったことには悲しくなります。
歌うというのは、何か特別な時空が与えられるように思うのでしょうか。マイクや楽器を持てば心に通じるかのような勘違いが、日本の音声レベルをひどくしました。
ヴォイトレをしなくても、民謡から小唄、都々逸と一般の大衆レベルで高度に成り立っていたものがありました。国際化、舶来品大歓迎の流れのなかで、浅草オペラから美空ひばりを代表とする歌謡曲も、あと一歩まで行ったのに、今世紀には絶望的な状況です。あらゆる分野に根がなくなりつつあります。いまや、成り立っているのは、お祭りのかけ声くらいでしょうか。