トレーニングはすぐに役立たないことを行うこと、そこで、できるだけ大きな器、つまり余裕をつくることです。形だけで左右されない実をつくる、その懐を深くすることが本来の目的です。
具体的には全力で歌っても、その声(たとえば歌)ですが、その限界を他人に見極められないようにするということです。それがその人の懐、奥行きとなります。さらなる可能性の暗示、ひいては見えない魅力となり、飽きられない表現力になります。不調のときでもカバーできる力(フォロー、余力)となります。
私がプロとのトレーニングで目指してきたのは、今すぐの歌唱力の向上よりは、こういう器づくりです。将来に大きな可能性が開かれてこそ、基礎づくりです。
出ない声を出そうと頑張るのでなく、出る声を完成させて表現しつくすことです。それができる声、呼吸、体づくりを目指すのです。
ですから、歌唱指導者の多くが、歌のために出ない声(特に高音)を届かせることを第一の目的としていたのとは、異なる立場です。
すでに充分に出ているとみえる声さえ、一流の声との差をみつめ、大きなギャップのあることを知ることです。まずは一声を、一音ずつ埋めていくことです。その中で繊細な使い方を知るために、大きく出せるようにしつつ、音楽的感性やフレージングを伴わせていくのです。