ときに、とんでもない要求があります。「プロの歌手よりうまく歌ってください」、「プロの役者よりうまくせりふを読んでください」、「アナウンサーよりうまくニュースや早口ことばを読んでください」、などです。
世の中には、スーパーマンのように何でもできる人もいます。しかし、トレーナーは、スーパーマンではありません。そんなことができるといったら、それぞれのプロの人に失礼なことです。
そういうプロの人とはトレーニングしていないトレーナーなら、素人相手にのど自慢をするのもよいと思いますが。本当のプロとは、専門の場で長く居つづけた人です。トレーナーはレッスンのプロであり、ステージのプロではありません。
自分の能力や素質、才能などは、わかっているつもりでわかっていないものです。トレーナーも、すぐにはわからないことが多いです。それでも、経験上、10年20年と人をみていると、認識を深めていけます。
私が続けていられるのは、私の力でなく、私に与えられた機会や場のおかげです。そこで取り組むうちに、私のなかのそういう力が出てきたのです。これも、そのプロセスの一部です。こうして伝えようと努力してきた結果です。
私にとっては、当たり前のことが、世の中の多くの人にわからなくなったのは、中途半端な自己責任、個人主義に走ったためでしょうか。マスメディアや教育やトレーニングの劣化のせいです。学ぶ人もお客さん気分になってしまったからです。トレーナーの歌に感心するくらいなら、なぜ、その人がプロ歌手として、うまくいっていないかを学ぶことが有意義です。プロ歌手とトレーナーは違います。プロ歌手の二流が、トレーナーではないのです。