声がかすれる、喉が痛い、声が弱いという症状でいらっしゃる人が増えています。養成所やプロダクションに入ったり、オーディションを通ったりした直後のプロやセミプロにも多いことです。
昔は、喉について教えてくれる人はいなかったのに、今は、あなたの喉はこのようになっているとか、他の人と違う、などと、丁寧に説明してくれる人もいます。そのために、うまくいかないのは喉のせいだと思い込む傾向が著しくなってきました。
アドバイスや知識を得るのは悪いことではありません。自分を知ることも、勉強するのは、よいことです。私も毎日、いろんな本を読み、学説や論文にも目を通しています。
しかし、それは現場では大して使いません。というより、使えません。もっとも使っていると感じるのは、自己否定的な態度をとる人の根拠を崩すためです。知っていることによって、よくない方向に振り回されている人に、それを忘れてもらうためです。早くトレーナーを信頼してもらうのに必要なときがあります。
知識を信じる人は知識のある人を信じ、それを使わない人を信じません。知識の虜となっている人は、固まった頭をほぐさないといけません。
理屈で納得したいのですから、頭で理解しないと体や感覚にも効かないのです。それは大きな欠点です。細かいことや正しさにこだわる人に多いです。今の日本では一般的になりつつあり、結果として救われないのです。
「それは確実に上達できるか」「絶対に効果はあるか」「何回、何ヶ月か、いくらかかるか」というアプローチをするような人です。
私はその問いも半分は当然のことと思っています。できたら、これらの問いに対してクリアしたいと思っていますから、問うこと自体を否定しているのではありません。
しかし、声や歌は日常のものであるからこそ、そういう問いは、不毛になりがちです。変えるためには、非日常なレベルに目的を置き、必然性を高めておかなくては、いつものレベルに戻ってしまうからです。