私は、舞台のビデオをみせるときに、2回に分けるようにしました。最初に動画でみせて、次に音だけで聞かせます。ときには逆にします。しつこく両方を試みることもあります。動画でみると、その出来に安心していた人が、音だけで聞いたときに唖然とします。
私は目でみながらも、耳で判断します。声のトレーナーだからです。みるのは、他の人、客や出演者の心の動きです。舞台からは目をつぶったのと同じ世界で働きかけてくる音、声だけをひろいます。このあたりは、まさに音楽監督と一緒です。
これを日本の演出家は、せりふはまだしも、ミュージカルや歌においても、声を楽器の演奏レベルで捉えられていません。その結果、ダンスが世界のレベルに一部、追いついても、声や歌は置き去りにされてしまったのです。
ベテランになるにつれ、歌い手もそうなりがちです。ラジオやレコードだけならそうならないのですが、ステージの体験が皮肉にもそれを助長します。