ヴォイストレーナーの仕事は、誤解を恐れずにいうと、音楽の仕事ではないのです。研究所のようにプロやそれなりにできるレベル以上の人が集まっているなら別ですが、それは特別のケースです。自分に上の人とやるなら、教えることは、自分の勉強になります。
プロと接することの機会は、ふつうのトレーナーにはないでしょう。駆け出しのヴォーカルがトレーナーをするなら、初心者相手にしかありません。スクールも同じです。
多くの生徒は、1、2年で交代していきます。スクールのトレーナーをやるのは、テレフォンアポインターとあまり変わらないところもあります。
若いうちは、喉はタフではありませんから、自分の喉によくありません。
世の中に出るのには、最高の喉の状態をキープできることが必要です。“ひどい声”を聞いて、それを直す、音程やリズムのはずれたのを聞き続ける、これはかなりの負担にならないはずがありません。生徒のコンサートやレコーディングまで関わると、かなりの負担になります。もっと自分のことで、すべきことがあるはずです。自分の客やスタッフとして、生徒を頼ることになるパターンが多いです。
こういう人は、とても面倒見のよい人です。それゆえにアーティストではありません。一流のプレーヤーは引退後、一流の弟子を育てることもありますが、ヴォーカルに関してはあまり当てはまりません。
自分の世界を創り上げてから教える方にまわるか、きっぱり断ち切って自分の活動に専念することです。生徒が先生くらいにはなれると勘違いするのもどうかといったところです。