かつて作曲家は、歌手のために曲を書きました。歌手によって、その歌の魅力が十分に発揮されました。ときには、歌わせる歌手の器をふまえて書いていたからです。
ときに歌手が作曲家のイメージを覆ってしまうくらいの歌唱をして、大ヒットする時代になりました。作詞家の永六輔を怒らせたという坂本九さんの「上を向いて」の節まわし、沢田研二さんや山口百恵さんあたりも、よい意味で、曲のイメージを裏切り続けた人でした。森進一、前川清、八代亜紀など、紅白の常連組の3分の1くらいはそれがありました(そういう人のすべての歌がそういうものというわけではありません)。
シンガーソングライターになると、本人が自分を総合的に演出することになります。声そのものや音楽としての基本デッサンの力は、あまり問われなくなりました。
J-POPSになると、プロになりたい人に見本にさせるのはリスクがあるほど個人と曲の結びつきが強くなりました。歌の基礎力の大切さがわかりにくくなったのです。