レッスンにおいて声だけでなく歌においてもオリジナルのフレーズを求めざるをえなくなったのは、私のヴォイス本が「ロックヴォーカル基礎講座」というタイトルで最初に出たせいかもしれません。ロックのヴォーカリストになるノウハウの本と思った人が少なくなかったのです。
本でロックヴォーカリストになるという、ありえないような誤解は内容をしっかり読めばおきないように書いてあります。この本は、ほとんどヴォーカルのことに触れずに、声のことと声の鍛え方、管理のしかたを述べた初めての専門書だったからです。
ちなみに、この本で、芸人や邦楽、外交官や政治家といった勘の鋭い方もいらっしゃることになりました。こちらとしては大いに勉強にもなり、自信にもなりました。素人がプロのロックヴォーカリストとなり、活躍するより、異分野の一流の芸やビジネスであっても国際舞台で通用するという成果につなげられたからです。ここでは、本当に声の力は1割です。その評価なども大いに検証すべきです。
私としては、元より、日本人にとっては、直にロックなど欧米レベルのものを歌っていくよりは、体というか、声のレベルが違うのですから、役者レベル(当初は結構高かった)の声に達してから歌えばよいという、正道のプロセスを示しました。
お笑い芸人や漫才師、噺家などもいらしていました。声の力、やる気、センスなどからみて、業界の中心が歌からお笑いの世界に変わることは、90年代には明らかでした。歌が声の力から離れていったのです。ロックをやろうとした人でも、テクノやダンサブルな方へアーティストが動いていったように私は思っています。