プロのピアニストは、ほとんどミスタッチはしないでしょうが、歌はプロでもけっこう間違えます。歌詞を間違えることもあります。しかし、それくらいで歌はだめにならないのです。そこからだめになることもありますが。
発声を正しくしたら歌唱力がつくと思う人がいます。1、2割はよくなっても、さして変わらないはずです。なぜなら、歌唱力とは、説得力で、発声の正しさとは異なる次元の力だからです。「正しい」―「正しくない」の軸と、「伝わる」―「伝わらない」の軸は、次元が違うのです。
ヴォイトレを表現力、歌唱力から切り離して教わることもあるでしょう。体や呼吸だけになると、なおさら「正しい」―「正しくない」はわかりにくくなるはずです。自らの実感が頼りになるので、自分本位になりやすいです。☆
表現の必要性に耐えうるか、必要の程度は、表現やその人によって違うので、程度問題です。トレーニングでは、大きめに余力までつけておくとよいと考えることです。
「正しい」のを目指し、「正しくない」のはよくないから「正しくない」ようにしない、ではだめです。なのに、間違いを正すことが、レッスンになっているケースが、まじめで熱心な人や先生ほど多いのです。
教わっても、それを守らないという学び方もあるので、全てを否定しません。そこが私のよいところですが、常識やルールを外れるのが、アーティストでしょう。ただ、ルールを破るのでなく、創り上げることで「正しい」などを消滅させるパワーがいるのです。