基礎のデッサン力のない人が、いくらピカソの抽象画をまねしてみても、でたらめにしかなりません。ですから、学ぶなら、名人の初期の若い頃のもの、最初の頃の作品の方がよいことも多いのです。名人にもよりますが。
これはトレーナーにもいえます。私が若い人を若いトレーナーに預けるのは、私の声では、生きた年月でも、培ってきたキャリアでも、名人には及びませんが、普通の人と離れているからです。ベテランのトレーナーも、「自分のようにやってみるように」と、教えるのはよいですが、そのようにできないのを注意しても仕方ありません。
トレーニングは、本当の成果が出るまでは、必ずそれなりの歳月を必要とします。そうであればこそトレーニングというのです。
1、2ヶ月で、あるいは半年、1年で、いかなる芸事の分野で一人前になれるでしょうか。基礎が習得できるものでしょうか。
人前で演じられるのには、最低、必要な条件というのがあります。最初からそれがあればトレーニングは必要ないという人もいます。もっと高みを目指したり、確実な力をキープしていくなら、最低限、歳月は必要です。余力も余裕も、最悪のときにも声が失われては困るのですから、あるくらいにつける必要があります。