一流の歌手は、声に表現力をもっています。それには表現、イメージのレベルを上げなくてはなりません。これは声の力とともに上がってくるのが望ましいのですが、クラシックならともかく、今のポップス歌手はそれを待てずに先に先にといってしまうのです。
鍛えて磨いた声、その共鳴、輝きを作品に、全身(全霊)でそのまま使おうとするのは、オペラ歌手です。ポップス歌手や俳優は何でもありです。しかし、声として共通する、表現の核、中心をつかんでいくのが、本当のヴォイストレーニングと考えています。そういう核となる声、中心の声を、「芯のある声」ということばで表しました。これはジャンルを選ばず、全身全霊で表現し切れる声です。
今の私の個人レッスンで発声の判断は、どこのトレーナーよりも厳しいです。昔は、本人がわかるまで待つレッスンが一般的でした。そういうアンテナの感度を高めて保つのが難しくなりました。
私のレッスンは、5分間もあれば示せます。その5分間のうち、たった5秒のことが、5年、10年の課題です。呼吸も、体も、筋肉も、全身のバランスやセンサーも、共鳴もそれぞれに整わなくては実現しません。何かが、すぐにそこで実現できてしまうくらいの基準では、レッスンにならないではありませんか。