好ましいトレーニングのプロセスをまとめておきます。
1.自然に直す
2.自然に直すのを妨げない
3.自然に直すのを妨げていることを排除する
4.自然に直す力の衰弱を補う
自分の心身にそういう力をつけるのが、もっとも望ましいです。
空調も、空気清浄機も、加湿器もなくて、同じことのできる力のある人は本番に強いし、有利です。
人間は文明を発展させ、治療についても飛躍的にさまざまなツールを発展させてきました。ある意味、じっとして治している動物に見習うべきところがあるでしょう。
世の中には、声のためにも、喉のためにもいろんな薬やツールが出回っています。アメ、水、嗜好品、加湿器、喉スプレー。そういうものを使う分だけ、あなたは、ひ弱になり育たないことにもなりかねません。
例えば、発声のための喉の状態をよくすること、声帯に水分はとても大切です。しかし、いつも水を飲んでは発声していたら、ないときは大変ですね。唾液がもっとも良い状態に口内を保ちますから、水で流すのは必ずしもよくないのです。このあたりも人それぞれに違いますが、喉アメなどで整えるのは、お勧めできないのです。
加湿するのは、喉には良いことですが、本番では乾燥や埃のひどい中でやることの方が多いです。そのあたりも、日頃からあまり甘やかさないのがいいと思います。
無理して埃だらけの中で歌うような練習をしてはなりません。しかし、ステージの乾燥には慣れなくてはだめでしょう。それに耐えられるくらいのトレーニングも環境は用意すべきです。
豊かな国のスポーツ選手が、アウエーで弱いのは、環境のためです。睡眠などを含め体調管理について、よほどの経験がなくては崩れてしまうからです。
私のところにも、他の著名なトレーナーについている人が、
トレーナーが忙しすぎる。
他の仕事で出張。出演が多い。
留学や休みが多い。
予約が取れない。キャンセルが多い。
などの理由でもいらっしゃいます。優れたトレーナーが実演家であると、教えることに全力をつくせないこともあります。そういうトレーナーの元からも、いらっしゃいます。
私のところでも専属トレーナーとはいえ、舞台があれば、やむなく休むときもあります。トレーナーが病気や事故ということもあるでしょう。その時に、レベルをおとさず代替や振替ができるか、そのトレーナーを引き継げるか、そういうことを考えている体制かを問うてください。
トレーニングは常に、形から入り、形をとり、(固定する)その形を取る(解決する)。そして、また1、2、3…と繰り返すのです。
私たちもエビデンス(証拠、論拠)を求められることがあります。提示できることもあれば、できないこともあります。ハッタリも、プラシーボ効果として必要なときもあります。科学や道具を使っても、何にもならないことが多いのです。
トレーナーの示す楽観的な見取り図は、レッスンを引き受けたり、キープするためだけのことも多いのです。どこまであなたを中心に考えているのかは、わからないのです。これはトレーナーに限らずどこでも同じです。
よいレッスンを維持できる環境や条件を求めなくては、トレーナー失格です。リハビリのようなマッサージのレッスンで、あとは何の効果もないことも少なくありません。
私が自ら声について行ってきたことをとりあげつつも、体験談など生徒自身の声を提示しているのは、それが現場だからです。こうしたことは、頭だけで考えられるものではありません。研究所であらゆる仮説を試行し、試行錯誤を通して完成に近づけようとしているのです。うまくいかないことも、ミスも当然ありうるのです。要はそれを放置してきたのか、修正しつづけてきたのか、ということです。その違いをみてほしいのです。
1.トレーナーの考え、理解、方法、メニュ
2.自分の考え
1と2は対立してもかまいません。いずれ自分のものとしていくというなら、トレーナーへ依存している比重を少しずつ自分に移していくことです。
定義、基準、資格のない分野ですから、トレーナー本人のPRや肩書をうのみにしないことです。たとえ、学会でも、会費で所属できるところが大半です。あなたも入れるでしょう。その人がそこで、どれだけ活躍しているかをみてください。
柔軟や声のチェックは、トレーニングではありません。声の使い方のアドバイスも、状態をよくすることと、将来の可能性の把握のために使うものです。
本格的なトレーニングを集中して行うと、バランスを失うなどのデメリットも出てきます。どこかに副作用を想定して対処することを考えてアドバイスしているのです。
私のところでも、トレーナーの見立てが異なるとき、トレーナーの個性で偏らないようにと、客観視することを務めてきました。必ず複数のトレーナーでチェックしているのです。
チェックは、何がわかるかでなく、わからないものについて行うことが大切です。チェックは、事態をよくするためにあるのです。ですから、チェックそのものよりも、そこからどうするかが問題です。
本人や周りが納得できるようにしたいのですが、納得したものが、本当によくなるとは限りません。
いつも「自分の声について、他人任せにするな」と言っています。体も、生き方も、価値観も、目的も一人ひとり違い、それを伴うのです。まずは、あなた自分自身の目的を明確につかみ、示していくことです。
トレーナーは、いろんな経験から、いろいろ学んでいますが、いくら学んでもわからないことはたくさんあるものです。わかっていることなどほとんどないのかもしれません。しかし、不安に思わせては、いらっしゃる人にあらぬ心配をさせ、効果もでにくくなるので、ニコニコと完璧なふりを装って対応します。
何もわからないのでは困りますが、何がわかっていて、何がわからないかを知っていることが大切です。トレーニングするにあたって、私はできるだけそれを提示するようにしています。一般の人の最高の集中力で5分、それを何とか20分に引き伸ばして、30分弱というところではないでしょうか。
レッスンの時間も長いほどよいのではありません。
私の親しくしている専門家は、声については、メンタルの問題が9割といいます。
・少し具合が悪いとすぐ専門家や医者のところに行く。結構なお金を払い、その分、効果があるように思う。
・長時間のレッスンの疲労感に実感を得る、コミュニケーションにおいて充実感や満足感を得る。
喉の状態が悪いために、そういうところへ行ってよくなる例は1/10×1/10=100に1つです。しかし、行くのは悪いことではありません。そこで
・原因を教えてもらい、自分なりによい状態をつかむ。
・専門家と話すことで、安心する。
・信頼することで、将来への自信を取り戻す。
これは、メンタル面での効果です。大切なことですが、長い時間軸でみると、自分のもつ条件は変わっていないのです。つまり、現実には状態がぶれているだけのことです。それがトレーニングというのなら、幻想に近いでしょう。ヴォイトレが本当に効果をあげるのかが、各界の第一人者に未だ認められているといいがたい状況は、このあたりに原因があるのです。
これは日本人の病院好きと似ていると思います。どこかしら悪いところをみつけにいく、病院で病名をもらいに行く。それがおすみつき、安心なのです。風邪で病院に行くのは日本人くらいです。その薬を貰わないと安心できなくて、眠れない。これでは自ら、病気になりにいくと言えます。
「原因がわかれば何とかなる」などというのは、科学の与えた幻想にすきません。
声についても、ほぼ推測、仮説での試行です。それでは心もとないから、「あなたは○○ですから○○をすればよくなります」というフォーマットでトレーナーは対応してしまうのです。いらっしゃる人から、そういう役割を求められてしまうからです。
方法やメニュを与えても大した効果はありません。望みが高くないから、どんな方法やメニュでもそれなりになってしまうのでしょう。よくなったと思い込みたいので、よいところをみて、そのように思い込んでしまっているのです。
よいレッスンは、気づきのための基準と補うための材料を与えることです。方法やメニュは、それを使えばすぐに解決しそうと、すぐに解決しようとする方向で使われやすいために、害になりかねないのです。
次のようなことについて、どう思いますか。
・医者やトレーナーは万能である。体(病気、治療)や声のことは何でも分かる。
・医者やトレーナーは自分に合わせてくれる。合わせられる。
・レッスンやトレーニングをしないとよくならない。
・メニュや方法がないと不安である。上達にはアドバイスが絶対に必要。
・独自のメニュの方がよくなる。
・よくチェックするのがよいトレーナーだ。
・質問をしても意味がない。
・いつも、自分に最も良い方法でやっていると思う。
・有名な人ほど実績がある。
・プロデューサーやレコード会社は、未知の才能を発掘する。
・スタジオや設備が充実しているところがよい。
・マスコミによく出る人はすごい。資格を持ったり、学会、他、加入している人、海外などに有名な人に学んだり、習ったりしている人はすごい。
これらについて考えてみてください。
実践形式のトレーニングを分けるとしたら、10くらいのランクがあるのです。
2までは誰でもやればよい日常の延線上にあるものです。3から先は、プレイで必要とされることによって専門特化していくのです。バスケット特有の動き、トレーニングを、テニスや水泳の選手がやっても仕方ないでしょう。3からが、プレイには不可欠なものなのです。
カール・ルイスは、100メートル、200メートル競走と、走り幅跳びを兼ねました。高跳びやハードルはやりません。これは3から先のトレーニングが矛盾するからです。つまり、速く走るための理想の体と、高く跳ぶための理想の体が違うのです。ストレートにいうと使う筋肉が違うのです。高く跳ぶ筋肉は、早く走る筋肉と矛盾してしまうのです。
これを声や歌に置き換えると、どのようになるかを、私は課題としてきました。高い声と低い声、細い声と太い声。声域と声量、どこまで両立し、どこで矛盾するのかは、簡単に述べられることではありません。スポーツ以上に個人差があるのです。ヴォイトレにおける3とは、いや4~10とは何なのでしょうか。私がよく使う声の基本表を掲げておきますので、考えてみてください。
<基礎>
1.体
2.息、発声
3.共鳴
<応用>
4.発声、ことば、フレーズ感
5.リズム感。温感
6.構成、展開
<本番>
7.キャラクター
8.状況対応力
9.オリジナリティ、世界観
10.オーラ、人格、人間力
やればできるというなら、やらないでできていないものを目的とすることでしょう。スポーツのトレーニングの研究をすると、基礎といっても、いくつかに分けられます。スポーツでは、一般的に
1.基礎の基礎―柔軟(調整)
2.基礎―体力作り、ランニング(強化)
3.基礎の応用―特別なプレイへの動き(調整)、もしくは、そのための特殊なトレーニング(強化)
一概に基礎といってもこの3つがあります。2までは、腹筋や腕立て伏せなど、どのスポーツでも同じようなものです。3では種目において異なることです。
バスケットでは3は、ピボット(急に向きを変える)や、カニさん歩き、腰をかがめ、重心を低くして手を上げ、横に歩く=ディフェンスの基礎、
この上に、ボールプレイの
4.応用の基礎―ドリブル、シュート
5.応用―1on1(1対1)
6.応用の応用―3on3(5on5)
そして、本番は、10分の4クォーター(ピリオド)です。