多くの場合、人というのは、今の状態を根本的には変えたくはないのです。本気で変えたいと思えば、その分は変わるものです。
声もその結果の一つです。執着、執心するために、パワー、生きる力も落ちていくのです。声の場合、表現の世界なので、その人がとても大きなことに触れると急に変わることがあります。
守りに入ると進歩は終わると言ってきました。終わるというのは、戦いではないから死んだり殺されるわけではありません。固まっていくということです。その方が楽なのです、安定するからです。それを上達と思うならなおさらです。
自分が楽にならないと他人も楽しませられないから、エンターテイメントは、もとよりそういう宿命をもっています。つまり、ステージで自ら楽しめることが安心してみていられるレベルのように変じてしまいます。それは実力であっても、パフォーマンス力や演出力なのです。
上達することで最初は上を目指し、上に達する、達したように思うと、後は堕ちていくものです。芸としてさらに上りつめていくには、自らが楽しめることも客が楽しむことも関係ない。そこで失敗と挫折を繰り返し続けなくてはいけません。最初のように―。