夢実現・目標達成のための考え方と心身声のトレーニング(旧:ヴォイストレーナーの選び方)

声、発声、聞くこと、ヴォイストレーニングに関心のある人に( 1本版は、https://infobvt.wordpress.com/ をご利用ください。)

デビュー本からの派生

 私がヴォイトレの本を初めて書いて30年経ちました。発声について欧米から学んだ人が書いた本とは異なる、日本人としての本でした。それはそのまま、シンコーミュージックの「基本講座」は理論、「実践講座」はメニュを中心の本として世に出しました。

いくつかのカラオケ指導の歌の本や医者の喉の本などはありましたので、喉の仕組みあたりに引用させてもらいましたが、それ以外は、ほとんど独創的なものでした。

「ロックヴォーカル」とついていたものの、ポピュラー全般を対象にし、歌の本なのに歌には触れず、歌手や歌詞にこだわらず、声についてまとめました。一から声づくりをしていくために、当時の私のヴォイトレの活動を参考にまとめたものでした。

 

 意図したことは、日本人の感覚や体に焦点をあてることです。これはベーシックであったために役者や声優などでも使えるもの、今では邦楽から一般のビジネスマンにまで応用されているものとなりました。その分、対象、レベル、目的は、やや不明確になったということです。その点は、岩波ジュニア(10代、教師向け)や祥伝社(女性や中高年向け)、英語やビジネスなど、対象によって異なる本へ分化させたのでカバーできたと思っています。

文字から動画へ

 人類は、文字を発明するまで口承で伝えてきました。文字ができてから長らく写され広められました。絵が絵文字、そして文字になったプロセスは、今のアナログからデジタルに変わる以上の大転換といえます。時間、論理が入ってきたからです。そこで未来を考え、不安や恐れを抱くようになったからです。

活版印刷の発明で16世紀から本の時代となりました。20世紀初めには画は写真に、音声はレコードに記録、保存できるようになりました。さらに動画として映画、フィルム(サイレントからトーキー)になり、ラジオやテレビで視聴できるようになりました。

デジタル化とは、大量のデータを統一して(0と1の組み合わせで)圧縮、コンパクトに保存し、瞬時に伝達できること、および検索できることです。これは文字だけでなく、音声、動画をも同じデータ(0と1)として容易に扱えるようにしました。コミュニケーション(発信、伝達、受信)のコストを徹底して下げたのです。

 

 情報を発信する一方のマスメディアが、今世紀になり、インターネットの発達で、手紙、電話といったプライベートな交流が一気に高まりました。1990年代にマルチメディアということばで見通されていたことです。世界の距離や時間の感覚は、この10年で大きく変わりました。全てがスマートフォンに集約されつつあります。

 この問題を扱うのは、20年ぶりですが、文字で伝えることのもつ意味を確認しています。

考察

感覚と場を読み取る力

「聞くことに答えない」という答え

他人に委ねられないのに非難するな

自分のことばのフィードバック(のりとつっこみ)

フィードバックをかけすぎる人、ためないと出せない人

継続性、連続すること

一貫しているもの、芯とぶれ

歌のなかの線、声のなかの芯

相手のなかに自分をみること

すぐれたものがあることを知っていること

相手の立場にたってイマジネーションする能力

ことばにならないこと

 ことばにならないことが大切なのです。「星の王子様」みたいなこと(ここの話は研究所のサイトにあります。読んでみてください)ですが、いらっしゃる人と、ことばでやり取りをして長くなることもあります。

 わからないことをことばにして整理するのもトレーナーの能力であり、仕事です。でも、考えるまでもなく、ことばはどちらにもぶれさせることができます。論理に組み立てます。

 そこで、どうしても雑になります。感じ、イメージから離れます。インデックスです。だから決めたがる人は、ことばを求め、ことばに安心します。そこで止まってしまうのです。

 ことばは、詰めるための手段とし、使えるところで使うのにとどめたいものです。あとは、体と感覚に委ねなくては先に進めないのです。私は「本でやるのでなく、本でまとめるように」と言ってきました。

 プロセス自体まわりのもの、すべてをみないようにしたら、ことばにできます。でも、それで伝えられたと思えないでしょう。

一貫する

 私は、自分=表現=歌=音楽を一つの声として一貫させるのを理想としています。真のアーティストなら、しゃべればせりふであり、歌であり、音楽であり、そのまま作品であり、芸術であるのです。そのために必要なのが基礎トレーニングです。結局は、応用において、どれかが通じていたらOKという現実の判断を強いられるようになりました。

 

 声がすべてでないので、歌がOKならよい、表現がOKならよい、という判断も必要です。でも声がOKではだめです。トレーニングや体づくりは基礎で、それがOKになるのは器づくりや可能性としてのプロセスです。

問われるのは、切り取った作品として歌や音楽という表現です。いくら人間としてよい人でも、歌がだめなら歌手としてだめなのです。

ヴォイトレ、声楽はふしぜんか

 役者や歌手は「ヴォイトレ(特に声楽)にいくと、ふしぜんになるのでやめた方がよい」と言われていたことがあります。それは一理あります。私が思うに、トレーニング=ふしぜんですから、トレーナーに「よい」と言われることのなかでも、のど声になる、オペラみたいな(オペラもどきの、よくない)押しつけたり、こもったりした発声になる、合唱団みたいな(合唱団もどきの)個性のない発声になる、などがあげられます。

 「声楽やオペラを学ぶと個性がなくなりませんか」という質問も、よくあります。私の本を読んでいる人は、それは応用と基礎の取り違えであるとわかるのでしょう。

 コンテンポラリーダンサーが、クラシックバレエを習ったら、そのダンスがバレエになるでしょうか。本人が声楽の勉強しかしていないし、それにばかりこだわるなら、どう考えても声楽っぽくなるでしょう。

 習いにいったくらいで消えてしまう個性って何でしょうか。

 よくあるのは個性=自分というのと、表現として現れる、価値としての個性との違いです。これはオリジナリティと混同していることです。

その先のヴォイトレ

 私も「体と感覚を変えていきましょう」と、体は鍛え、感覚は磨くのです。プロは、感覚が磨かれているわりに、日本人の歌い手の体は鍛えられておらず(柔軟性にも欠けている)、息吐きメソッドなどを発案したのです(ここでは、私の「ヘビメタ=レスラー論」※を参考に)。

 しかし、少しずつ、レベルが下がってくると、感覚(音楽的センスも)の強化がより重要となります。試聴音や音音程・リズムトレーニングを加えました。

 

 感覚(耳)を磨かずに、体(声)だけ鍛えていくと、鈍くなります。体育会系の人などには顕著に表れます。彼らは体や息や声ができているほどに歌にならないのです。一方、トレーニングを積み上げなくても歌手になった人がたくさんいます。声や歌では、それで通じるくらいの日本の市場だからです。そこから先のトレーニングの不毛さを証明しています。

トレーニングは一時、鈍くなる

 問題を深刻にしないことは、大切なことです。

 声を強く大きくしたいという要望に対して、多くのトレーナーはストップをかけます。なぜでしょう。

私は、ストリートサッカーの時代の必要を説いています。サッカー場でプレイする前に、どれだけボールに触れていたかが、一流のストライカーの条件と述べたことがあります。高い声や大声を自己流でやるのは、本を読んでいるだけよりはよいことだと思います。

 でも、多くのトレーナーが中断させるようになったのは、トレーナーが優秀で、そこへくる人があまり優秀ではないからともいえます(私の場合は、私というトレーナーが優秀でなく、くる人が優秀だったので逆です)。習い事なら、そういうものです。優秀な先生からみると、「強く、大きく」は「鈍く、丁寧でない」のです。彼らの立場では、「強く」とか「大きく」は、学びにくるまで自分でやって失敗しているから(その限界を知って)ここでは、大人になりましょうということです。だから、その先に行けないのでしょう。

懐とストーリー

 ダルビッシュはその後、今年最強のルーキーを、大事な場面で、なんとインハイにストレートで決めて三振にとりました。キャッチャーがOKしたのです。

 そういう環境を与える大リーグとのいうものの懐の深さに、ダルビッシュは大リーグに行って、本当によかったと思ったことでしょうが、日本人としては残念に思います。

 プロ野球も、相撲も、プロレスもボクシングも、私が子供の頃のような、エキサイティングな環境が失われているからです。選手も監督もコーチも、何もしていないわけではないのですが、明らかにスケールが小さいのです。野村元監督が、○○の○○監督の「何も指示しなかった」というコメントを、「その通り。正直だ」そして、「何もしないからダメなんだ、野球もダメになるんだ」と述べていました。

 

 相手を信用して何もしないのと、指導者の役割を全うするために、考えに考えて何も指示しないのとは違います。現場のことは、そこにいる人しかわかりませんから、何が正しいとか、誰が偉いとかはわかりません。人に伝えるときにはストーリーやドラマをつくってしまうからです。

 私たちの現場も、そこから先を考えていくことが大切です。

 「ピンチになった、気づいた、変えたらうまくいくようになった」というほど現実は単純ではありません。もっと語られないこと、本人たちにもみえないものが、大きく働いているものです。

 シンプルに学んでいくことも大切です。私たちは大リーグに行くわけでも、マウンドに上がるわけでもありませんが、選手のことばや番組のつくったストーリーから学べるものを学べばよいのです。それを明日へ、自分へあてはめて、ヒントにすればよいのです。そのために、ここで伝えています。

修正能力

 ヴォイトレでも、トレーナーの方針ややり方、メニュと、本人の上達とのギャップに、悩む人は少なくないからです。

 ダルビッシュの言うように、プライドある大リーグのコーチが方針を変えたことのありがたさは、日本では難しいのではないでしょうか。「自分でみつけて、気づいてやっていく。逃げずに立ち向かっていく。まわりの意思でなく自分で向き合ってやる」

 自分中心の考え方、まわりの意見で迷ったり、自分自身と向きあうことの得意でない日本人には、見習うべきことです。

 

 着目すべきは、気づくことと、気づいたら修正できる能力の高さです。ゴルフの石川遼も、シーズン中にフォーム改造をして、成績をアップさせました。2年ぶりの優勝でした。

 そういう能力をレッスンのときに磨くことです。トレーナーのアドバイスを一方的に聞くのでなく、きちんと判断して、自分にプラスに役立てていきます。ときにはトレーナーのアドバイスも自分が気づいたことでも、これまでの自分に対して異なるアプローチをしてみます。その必要性や可能性について判断して、実際に応用して結果を出すのです。

ダルビッシュ有とパワー

 世界へ出ていくサッカー選手や野球選手はよい参考になりますが、ダルビッシュアメリカでの活躍もその一つでしょう。渡米前、「技術でなくパワーそのもので世界に挑戦したい」と言っていました。技術で勝っても本当には評価されないから、パワーで打ち勝ちたいということです。日本人も、チェンジアップや変化球で買われていたピッチャーだけでなく、野手も大リーグに出ていけるようになりました。イチローのマジックのようなバッティング技術も足も、当初はベースボールとして認められなかったのです(ボクシングでも、ヘビー級がメインなのは、フライ級とか、モスキート級という命名でもわかりますね。小が大を制する美徳を持つ日本人なら、ハエ級、蚊級とはつけないでしょう)。

 

 圧倒的なパワーで勝負できないから、技術で勝負しようというのは、大国に対して小国日本の指針でした。大柄な外国人に対し小柄な日本人のとってきた方法です。しかし、156キロを出せるダルビッシュだからこそ、その負けん気に火がついたのです。

 ところが、初戦から、そのパワーは通じず、変化球主体の投球に変えざるをえなくなります。すべるボールと固いマウンドで、コースが定まらず、シーズン半ばにして大ピンチとなります。そこで、大リーグのコーチは、変化球主体の組み立ての指示を止めます。ダルビッシュは、プライスの投球をみて、ただ足を上げて投げることしか考えていない、リラックスの大切さに気づきます。自分が小指側からついていた足と、彼のベタ足でのつきかたの違いに気づき、改めます。マウンドの土の固さの違いから、ダルビッシュのフォームは不利だったわけです。

 このあたりは、NHKダルビッシュ自身が言ったことです。

 本場のコーチも気づかなかった、本場ゆえ気づかなかったのです。そのことに、重要な示唆があると思うのです。

意図を表現

 曲から離れて全体をつかんでみましょう。楽譜を歌うのでなく、歌全体の意図を歌うのです。

 声を一つずつ伸ばしてつなげるのは、日本の合唱などにはよくみられます。うまくいくと心地よさが眠気を促すようになってきます。一つずつ均等に伸ばすような日本語の母音に忠実であるほど、表現としては、間伸びしたふしぜんなものになりがちです。インパクトが切り捨てられているのです。

均等というのは、楽譜やプレイヤーの演奏上、そういうルールのときもありますが、スタッカート、テヌートでもない限り、動かさないと表現としての緊張を欠きます。

次の対立項は、日本人の歌唱、特に日本語の歌ではよくみられます。声とフレージングが、これらの2つの溝を埋めるだけでなく、超えていたら、表現としてはかなり強いインパクトを持ちえるのです。

メロディ          ことば、リズム

伸びやかさ(声量)     きめこまやかさ

レガート(スタッカート)  ことば

ロングトーン        ことば

 声とフレージングが、これらの2つの溝を埋めるだけでなく超えられたら、表現としては、かなり強いインパクトを持ちえるのです(目指している目的自体がずれている人の多いのが、日本の歌唱の問題です。拙書「自分の歌を歌おう」で詳しく触れました)。