長く生きると、長く携わることになったものについては、表向き、説明したりノウハウを使ったり、うまくこなせるようになります。声というのが、本当に経験キャリアにのってしか、成せるものというのなら、歌手や役者は十代でプロデビューなどできないでしょう。楽器のプレイヤーでは考えられないことが起きる声や歌の世界では、経験、実感は目安にすぎないかのようです。
ですから、難しいと思われている声の判断も、現場では大して迷いません。本当のところ、「全然だめ」とか「おかしい」―それが99パーセント、あとは、その内容をいかにことばにして説明するか、仮として解決策を述べることに努力が必要となります。
迷うのは「できていないもの」を「できているようにみせる」ところでの評価です。世界のレベルでみれば、声、音、音楽では明確なことを、そこまで届かない、あるいは、日本独自の基準、特にことばの重視、さらに音響、ヴィジュアルで総合パフォーマンスにするから複雑になるのです。そこにテクニックが出てくるわけです。ここでは、このことばは、あまりよい意味で使っていません。