似た問題をいくつか、加えておきます。
邦楽では、地声と言っていながら、高い声は、裏声を使っています。同様に、鼻呼吸だと言いつつ、口呼吸も使っています。「地声で歌ってはいけない」と言う師匠もいます。
所詮、マニュアルと実践は違うのです。定義もしないのに、何をか言わんやです。でも、定義できないものもあります。それを無理に定義して使う方が、よくないと思います。
だから、イメージ言語を使うのです。トレーニングでは、こうした机上の些細なことにあまりこだわらず、鷹揚に構えておくとよいでしょう。
「ハミング」「リップロール」「タングトリル」なども、ヴォイトレで定番となってきたメニュですが、目的によって、注意することもやり方も異なるのです。むしろ、苦手な人が、そのまま行うと逆効果となりかねないことも多いです。
リラックスさせるのが目的なのに緊張させて無理を感じる人、苦手な人は、そういうメニュは、がんばらずに抜かして進めればよいのです。絶対に必要なメニュや方法などはありません。
デスヴォイス、グロウル、グラント、エッジヴォイス、ボーカルフライ、ホイッスルヴォイス、フラジオレットといった、いろんな声の種別についても、こだわらないでください。
誰がどう分類しようと、それは仮説のようなものであり、「どの声か」などと考えても仕方ありません。「一般的に」とか「誰かの」は無意味なのです。
あなたの声は一つです。それを強く、いろいろと柔軟に使えるようにしていけばよいのです。
レッスンでは、こういう分類でうまく使えるようになることもありますが、それを邪魔してしまうくらいなら忘れましょう。トレーニングを複雑にしてはなりません。
用語は、説明や説得するのに便利な手段の一つに過ぎません。「このアレンジがヒットのノウハウ」といっても、それはヒットした説明であって、そのアレンジを入れたらヒットするわけではありません。
ですから、“ヴォイトレ市場”で、本やネットの情報に振り回され、理屈だけに走ると、身につかなくなります。トレーナー間を行き来したり、偏向した“トレーナーショッピング”となってしまうのです。
実際のプロのアーティストは、そういうことに関与せず、活動しているのです。なぜ、これまでヴォイストレーナーという資格やヴォイストレーニングという分野が、ここまで確立しないのかを考えてみるとよいでしょう。