私は指揮者を何人か知っており、そのつてで指揮をしてみたこともあります。有能な指揮者は、全体を時間の流れでみるとともに、部分的にチェックします。瞬間に空間でチェックするのです。
チェックというのは、ヴォイストレーナーと同じですが、私は一つの声を聞くことが大半です。ときおり、伴奏と合わせて聞きますが、バンドはともかく、オーケストラ指揮者は何十人もの演奏する音、オーケストラを聴くのですから、糸を紡ぐのと布を織るくらいの違いはありそうです。
しかし、そこで演奏を止め、一人を指してことばで注意しているところでは同じです。彼らは、歌よりは演奏が対象になることが多いのですが、その音の出る楽器を、指揮者が代わって弾いてみせて教えるのでなく、(ときにそういう人もいますが、プロの前ですべての楽器の見本をみせるは無理です)イメージの言語で注意します。この辺りも似ています。求める音をことばにして伝え、導こうとしているのです。
プロ相手では、楽譜の説明、表現、技巧、楽曲の説明よりは、指揮者はどのようにもっていきたいのかという曲のイメージ、構想を、個別のプレイヤーの技量を踏まえて示すことが求められます。
本番では、ことばは使えないので、身体の使い方でわからせていくような指示が出ます。手話のように身振り手振りで演奏のイメージを、頭より体にわからせるようにしています。それが指揮なのでしょう。
指揮者が使ったことばを私のように残すと、それは曲や演奏の研究に役立つのでないでしょうか。メイキング オブ オーケストラです。