声のノウハウが研究、蓄積、普及しないのは、あまりに個別だからです。耳鼻咽喉科では、患者のほとんどは声の問題で来るわけではありません。病気では耳や鼻が多く、喉についても、発声のことではないし、まして、ヴォイトレではないのです。
音声を中心に診ていても、病院ですから、声に何らかの障害を生じてきた人がきます。データは、すでに何らかの支障のある人に片寄っているわけです。しかも、ケアや現状復帰が最終目的です。トレーナーの扱うレベルとは相容れないことがほとんどです。
ヴォイストレーナーでも歌の専門家、発声の専門家といえるでしょうか。ここにいらっしゃる人も本当の意味で発声や歌唱を求めていらっしゃるとは限りません。ヴォイトレといっても、声そのもののトレーニングでなく、音楽的基礎のこと、メンタルやモチベーションのこと、パフォーマンスや見せ方などが中心になっています。それに、トレーナーの求められることが治療、ケアのような調整であれば、ほとんどトレーニングになっていないはずです。
昔の歌の先生は、伴奏して歌わせて終わりでした。リハーサルやレコーディング対策として、今のカラオケのようにして、曲を正しく覚えることが第一、次に歌心、といったものが、指導の中心でした。ヴォイトレそのものではなかったので、邦楽の教えに似た状態であったのです。しかも、プロデュースの前提として、歌がうまく、声をもっている人がメインでした。
ですから、プロを育てていても、声そのものを扱ってノウハウを蓄積しているところなどは、ほとんどないのです。自己流か、声楽や他のトレーナーのノウハウの受け売りなどで、自分よりもできない人や初心者を教えているケースがほとんどだったからです。