私も無理して背伸びする時間があったからこそ、今があるのですが、ここ4、5年、トレーニングを再開して、確かに声の調子がよくなったので、自分のメソッドのよさを実感しています。どのメソッドも、そのまま他人に通じるわけではありませんが。
私は、舞台を降りてからは、発声のトレーニングをしなくても声に困らなかったのです。まわりのトレーナーには、怠慢にみえたことでしょう。
しかし、当時はレッスンの指導を、朝の10時半か11時から夜の10時か11時まで、ひどいときは、食事もなく15分の休憩で続けていたのです。
夜だけのレッスンのときも、それまでに人に会ったり講演で、毎日最低4時間、多いときは8時間、声を使っていました。
今も、私は4~8時間、声を出しても支障はありません。しぜんであるというのは、その生活にそれだけの声が必須であり、それだけの声を出しているのです。
しぜん、毎日の生活、そういうものから離れた声や歌やアートというのは、私は、あまり好きではありません。もちろん、アートは非日常かつ華やかなものだからこそ、客は日常を離れて楽しめるものです。ですが、出演者は別です。本来、客の数倍も大きな日常の世界に住み、高度な芸をしぜんにふるまうべきでしょう。私は、日本のオペラに、しぜんを感じたことは、あまりありません。ミュージカルにもです。その違和感にいつもなじめないジレンマを感じています。