歌手になるのに、音大に行ったり、作詞作曲も楽器も、譜面も英語もマスターしなくてはいけないかというと、そんなことはありません。日本の歌の女王というと、(故)美空ひばりさんですが、彼女は譜面を読めず、英語も話せませんでした。しかし、ネイティブと同じといわれるくらいの驚くべきレベルで、ジャズやポピュラーソングを原語で歌っていました。
つまり、耳がよかったのです。耳に入る向こうのプロの歌声からイメージして、自らの発声器官を使って歌い上げていたのです。
語学も歌も、必ずしも年月と実力が比例するわけではありません。むしろ個人差が大きく、それは耳でどのように聞くのかという力によって、大きく影響します。その音声の世界を捉えるセンサーを、私は「アンテナ」といっています。
たとえば、ものまねが上手い人は、アンテナの感度がよいのです。でも、その名人が1回聴いてまねられることを、あなたは100回聴いてまねられたらよいのです。この「アンテナ」を磨くためには、同じ音声を何百回と聞いて、深く読み込んでいくのです。
ヴォイストレーニングというと、すぐ声のことにばかり目がいきますが、まずは耳の方が大切なのです。
たとえば、年配の方で「コーヒーとティーはどちらにしますか」と聞くと、「テー」と返される方がいます。その人の頭には、「ティ」は「テー」と認識するので、「テー」といってしまうのです。これは「テイ」「テエ」と違いを強調していうと、日本人は「イ」「エ」を区別できるので、すぐに「テイ」から「ティ」になります。このように、発声、発音の真の問題は、耳での捉え方に起因するのです。