たとえば、一時悪くなるけど、あとで効いてくるものと、一時、効果は出るが、大してあとも変わっていかないものがあります。これに関しては、トレーニングとして、前者をとるべきですが、なかにはそれを一時でみて、間違ったとか、下手になったと見切ってしまう人もいます。また、現場では後者をとらざるをえないことがほとんどです。そのため、いつも二段構えで臨みます。トレーナーが、この区別ができているのかがもっとも重要な点となります。
スポーツのように、コーチに言われたようにやったら新記録とか勝ったというように、結果にすぐには還元されないし、試合もないから明らかな結果というのも難しいのです。結果がよければすべてよしという結果が公の場でなく、個人の感覚や好みで判断されるからです。レベルの低い日本では、長期的な成果は、促成栽培的な効果のまえに否定されがちです。結局、声も歌も、所詮、本人が選び、本人が決めるのです。
しかし、アートですから、教えるのでなく、刺激すること、気づかせること、自分の声の可能性を認識させることが、トレーナー本来の仕事だと思うのです。
本人の要望に答えることと、それ以上の深い真理へいざなうことを、矛盾させないためには、神(この場合、一流のアーティスト)の手を借りるしかありません。
そのことのわかるアーティストとのトレーニングを行なってきた実績をもって、私は確信をもって述べているのです。プロは、投資分を必ず回収する力を持つ人です。力のある人はいわずともわかるのですが、それを一般の人にどう持っていくかは、難問です。本当に効果的な方法は、単独にあるのでなく、トレーナーと一体なのです。