10代でバランスがうまくとれて、とてもうまく歌える人が100人に1人くらいいます。スポーツなら3年後を考え、基礎をみっちりとやるのですが、歌の声はそのまま、それゆえ、体と合わなくなります。体が変わり、元の感覚でついていけなくなる。なのに、自覚がないのです。
一方でステージは、MCやパフォーマンス、声にも感情表現力が問われ、長時間たくさんの声を求められます。 それで、しぜんと体も感覚も理想的に変わるケースは、さらに100人に1人くらいでしょう。生まれつきと育ちの両方が高度に伴うとなると、1万人に1人くらいでしょうか。
歌唱の基礎の発声が定まらないうちにステージングに移ってしまい、声の使い方に無理がくるのです。こうなると、ほとんどはマイク、音響の効果に頼るようになります。一部の人は、いつか病院行きです。
今の人がそうならないのは、そこでの活動が昔ほど過酷にならないからです。昔からみると、考えられないほど声を使っていないのです。室内外の環境もクリーンでよくなりました。喉のケアを考えたり、表現にも安全な歌唱法を選び、感情表現に走らずに無理をしなくなったからです。皮肉なことですが、それが歌手自身の表現力やインパクト、パワーを弱めていることになっているのです。さらに声を扱う能力も超えの寿命も、です。