「腹筋を固めるな」「腹直筋を鍛えると呼吸や発声によくない」と言われ出しました。そういう質問に、私は「世界一流レベルにでも近づいてから考えたらよい」と、にごしていました。考えるに値しないことだからです。言わないほうがうまくできるし、よいように働いていくものだからです。とはいえ、何回かは、具体的に答えてきました。
インナーマッスルや体幹がブームになった頃から、外側の筋肉を固めると内側の筋肉がつかないという流れできたのでしょう。
筋肉や体幹について、一般の人がよく知るようになったのは、悪いことではないのですが、それを理論として、頭で考えて体を働かそうとすると、伸びやかにトレーニングをする人よりも悪い結果となりかねません。
言えるのは、ボディビルダーのように筋肉をつけたからといって、あるいは、腹筋が100回を200回できるようにしたからといって、発声と関係ないということくらいです。そういう苦行トレーニングの先に、よい発声や歌唱があるわけではないということです。
今さら言うのもはばかられるのですが、舞台で声を出すのに、腹筋が普通の人並みにもいらないなどということはありません。ヴォイトレにおいて、そういうことばを受け売りして、頭でっかちになってはよくありません。
本人が足らないと感じたら補えばよいのです。むしろ、足らない、補わなくてはいけないと具体的に感じられるほどの高い目標をセットすることを、レッスンで行うことでしょう。身につける必要性を与え、身につくようにしていくことです。