どこまで高い音を使うのかは、ポピュラーのソロなら、声の音色で決めることです。オペラやミュージカルは、曲で決まっていることが多いので、声域の獲得と、確実なキープが第一の条件になります。特にミュージカルに声楽の基礎のない人が抜擢されると、いつか、高音の共鳴が克服すべき主な課題になり、ここにいらっしゃいます。
30代くらいまでは、案外とラフな発声でも回復するので耐えられます。ダンスや役者出身の人で勘もよいからです。
演出家が、「声を大きく」とか「発音をはっきり」と言っても、「強く出したり口をクリアに動かさずに結果がそうなるようにする」ことで、喉を助けましょう。たとえば、フォルテッシモ=ffはとても強く出すのでなく、感情が強く表れるような表現、つまり、客に対して伝わることでみるべきことです。
大きくクリアに開けることと大きくクリアに出すことは違うのです。小さくても強い感情を表すことはできるし、口の形を大きく動かさなくても明瞭に聞こえるようにできるのです。
特に、大―小、強―弱のような大ざっぱな動かし方しかできない人に、鋭―鈍とか、加速度、間、呼吸などでみせられるようにしていきます。こういう舞台では、声の処理としての応用を必要とするからです。応用は、自分の持つものの延長上で処理しなくてはいけないのです。そうでないから、支障が出るのです。