クライアントがトレーナーに合わせているのに、自分のレッスンに合っているとトレーナーは安易に肯定しがちです。それではいけないのです。なんといってもトレーナーですから。研究所では、入ったばかりのトレーナーにベテランの生徒やプロのアーティストをつけてモニターしています。それに気づかせるためでもあります。
トレーナーがそれに気づかないと、どうなるでしょうか。クライアントは皆、同じ発声、同じ歌い方、同じ表情になっていきます。日本の合唱団病というようなものです。
本人と周りの人たちがよければ、気づかないのが幸せというものなら、何も言いません。
マンツーマンのレッスンは、クライアントとトレーナーがお互いに気を使って合わせています。かつての師と弟子のように同一化を求められる、そんなものしかないのは不幸なことですから、悪いことではないのです。
その世界やその人への憧れから入った人は、自分からの脱却=トレーナーへの同一化を目標としてしまうものです。同一化が目的となると、上達、充実、幸福感が得られやすいからです。しかし、それは手段なのです。
その間違いに気づくために、2人以上のトレーナーにつくようにしています。トレーナーは誰しも、多かれ少なかれ「自分が正しい、間違っている生徒を自分のように直す」と思っているのは確かです。そこで裸の王様のようにならないようにしなくてはいけないのです。